「書く」ことで自分を説明したー「本当に本をつくるプロジェクト」参加者インタビュー

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N/S高等学校では日々ワークショップ(以下WS)が行われている。さまざまな分野のプロフェッショナルを呼んだトークセッションや実際に体験しながら学ぶWSなどがある。「本当に本をつくるプロジェクト」も自分を全面に出すことができるWSの一つだが、3月に投稿されたこのWSの参加者インタビューを読んでくれただろうか? 今回は第2弾として、名乗りをあげてくれた橘 祐希さんに話を聞いた。

話をしてくれた人=橘 祐希(たちばな ゆうき)さん
N高等学校卒業生(インタビュー時は在校生)
18年間、人知れず思っていたことを書いたエッセイ「くまが、やきにくをたべた」を執筆

目次

WSで繋がった輪

ーー「本当に本をつくるプロジェクト」のWSに参加した経緯はなんですか?

最初は「ナンだこれ?」と思いました。説明を読んでいくと本を作れると知って、やりたいと思いました。Googleフォームで応募理由を書きました。何文字までという制限が確かあったんですけど超えてしまいましたね。その後、家族でスシローに行った帰りに途中で寄ったコンビニで、メールがきて「はああ当選だ」ってなりました。

ーー嬉しかったですか?

えげつなく嬉しかったですね。それこそ将来どうするんだ。卒業までの数ヶ月間何をしようかという状態の中でこういう機会をいただけたので、ただ感謝しかないです。

ーーそうなんですね。同じWS参加者の上野香織梨さんにインタビューをした際にWSの参加者で仲がよかったという話を聞いたのですけど、橘さんも他の方と関わりはありましたか?

実は記事で書かれていた、WSが終わった後にzoomを開いていたのは私だったんですよ。

ーーそうなんですか!? まさかご本人とは。

毎回やっていましたね。他にも、たまたま京都に行く機会があって、同じWS参加者の関西勢の子と夕飯を食べたりもしました。今度の卒業式でも、3年生の関東勢の子たちと会う予定ですね。

ーー輪の広がりがすごいですね。WSを通して身についたことはありますか?

「身についたこと」ではないと思いますが、本を作る過程で、印刷工場を見学させて頂きました。編集者の方がいて、デザイナーの方が表紙を考える段階があって、印刷所の方がいて、紙を選ぶ段階があって、そういういろんな工程があって本が完成するのをマジマジと見ることができたのは、経験としてとても貴重なことだと思います。

心の中を伝えることをこの本に託した

ーーなぜ「くまが、やきにくをたべた」というタイトルにしたのですか?

本を読んでいただいたらわかると思うのですが、本文と全く関係ないんですよね。なぜかというと、元々タイトルは全く関係ないものにしたかったんです。例えば、歌でタイトルを連呼する曲と一切タイトルが歌詞に出てこない曲ってあるじゃないですか。

ーーありますね。

その「タイトルが歌詞に一切出てこない」っていうのが面白いなって思いました。ただ単純にインパクト的に意味わかんないなっていうのがよかったんです。実は裏話があり、私が幼稚園の年中の時にカルタを作る機会があったんです。その時になぜか私の家のベランダでくまのプーさんが焼肉を焼いてるっていう絵を描き、「くまが、やきにくをたべた」って文を書いたんですよ。なぜ「くまが、やきにくをたべた」なのかは記憶に残ってないんですけど、その風景だけが、映像としてすごく記憶に残っていました。だから、小さい頃の話を書くっていう意味でも、今回のインタビューのように裏話として、読者の人たち話せるとにこういう意味だったんだってわかってもらえたら面白いかなと思って書きました。

ーー幼稚園の時に書いたから、タイトルが全てひらがななのですか?

そうです。先にタイトルを決めていたので、作中にある(くまのP…)というツッコミの文章は伏線回収みたいなものです。

ーー作品では自分の18年間について書かれていますが、全てを赤裸々に語ろうと思った理由は何ですか?

元々この本自体が、不特定多数から利益を得るために売るものではないとわかっていたので、誰かのために書くよりも自分のために本を書きたいと思っていました。今まで抱えてきた自分の悩みや、苦しみを表面上では出さないようにしてきたので、ずっと隠し続けてきた自分の弱い部分っていうのを、実はそうなんじゃないんですって言いたかったんです。でも口に出すことができませんでした。卒業するので「進路はどうするの?」と友人、親戚、家族も不思議に思っていたと思います。ただ「仕事も何もできないのでニートになります」だと説明がつかないので、だから、文章を書くことで今までの経緯を語って、その結果「今この位置にいますよ」というのを伝えたかったんです。なので、最後の文は「今まで目でみてきた表面上の私と文章で語られていた私はどう違って見えますか」と締めました。

ーー全て語るのに勇気はいりませんでしたか?

いえ、私としては吐き出すような感じです。辛くなりながら書いたっていうのは一切ないです。まるでうどんを啜るように、すらすらと書きました。

ーー結構軽めですね。

はい、結構軽めです。私自身が星野源さんのエッセイ「いのちの車窓から」(2017 KADOKAWA)が好きで、そのエッセイがうどんを啜るように辛いことを書いていたんです。軽く食べられちゃうけど結構重いこと書いてるなって。その世界観が好きで目指したいと思いました。なので、辛いことをたくさん書いて事実を伝えようとはしているんですが、私の性格的にどよーんとした気持ちで受け止めてほしくないので、そこをフォローするという感じで文章をどんどん軽くしたいと思いました。

ーー最後に「親しき人々よ。みなの反応が楽しみだ」と書かれていましたが、実際どのような反応がありましたか?

母が届いてすぐに読んでいました。私はちょっと離れたところでパソコンを触っていたのですが、パッて顔を上げたらボロボロ泣いてたんです。多分申し訳なさを感じているんだろうなって思いました。私がそれを全て包み隠していたので。あんなこと思っていたんだっていうところで感情が出ていったのかなって思いましたね。そうやって母のリアクションが返ってきた時に、文に対して私に反応が返ってきたんだという嬉しさがありましたね。

N/S高でできることはやりたいことを見つけることだけじゃない

ーー今後、また人生を振り返ってこのように書くことはありますか?

機会をいただけるのであれば何でも書きますね。文章を書くことは好きなので、人生を振り返って書くというのは今後もあるのかなって思います。

ーー自分の人生を通してN/S高生にアドバイスできることはありますか?

私が在籍していた3年間とこれからN/S高の子たちが過ごす3年間は全くの別物になると思います。最初の頃には、キャンパスで授業がなかったという過去の話を聞くと、今のキャンパスとは違うものになっていると思います。その変わりゆく中でも、こういうWSがあると思うので、自分の辛い過去を吐き出す場所や、自分の心を解放できる場所を見つけてほしいなって思います。
「N/S高らしさ」っていうのはないと私は思います。「N/S高とは」って徐々に説明できないものになってきていると思うので。だからこそ、自分のしたいようにできたら一番いいと思います。「やりたいことを見つけなさい」とよく言われると思うのですが、別にそんなことはなくていいかなと私は思うので、「自分らしさ」とか「自由」とかに重きを置くことができる3年間を過ごしてもらえたらいいのかなと思います。

橘さんの話に、共感できる人多いのではないだろうか。「口」では伝えられない思いを「書く」ことで、自分を説明することができ、心のうちを吐き出すことができた橘さん。私にとっても、読者のみなさんにとっても、何より橘さんにとっても「書く」ことは今感じている表面上のことだけでなく、内面的な思いを人に伝えられる素敵なものだと感じた。モヤモヤを抱えている人は橘さんのように書いてみてはいかがだろうか。

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