ポーランドで現地調査した村上財団代表理事・村上玲さんに伺いました 「ウクライナ危機と、私たちN/S高生にできること」(後編)

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取材・文=住井 円香(S高1期・ネットコース、投資部3期)

ポーランドで現地調査した村上財団代表理事・村上玲さんに伺いました 「ウクライナ危機と、私たちN/S高生にできること」(前編)』の続きです。

 ※ 記事は前・後編の2回に分けて掲載しています。今回は後編です。

↑ポーランド現地調査の様子などを話す村上玲さん
目次

■「ロシア軍が来る」――突然の知らせに何も持たずに車で1週間かけて逃げた母子

 
 ーー現地に足を実際に運んでみて、忘れられないエピソードはありますか。

 いろいろな方とお話しした中で、想像ができないような経験をされていると衝撃を受けた方がいました。その方は、ロシア軍が来るということが突然わかって、何も持たずにとにかく車に乗り込んで、子どもと一緒に逃げてきて、かつ国境を越えるまで1週間ほどかかったそうです。

 連絡が来る友人からも、彼女の友人が亡くなったと聞きました。一部のロシア軍の非人道的な女性に対するハラスメントをはじめ、子どもに対しても非人道的なことが行われているということも聞きました。その友人からは、そういったことは身近にも起きていて、一緒に学校に通っていた知り合いがそうした目にあっていると聞いたのは衝撃的でした。

 ーーそうした状況の中で、心のケア的な部分も支援の中に入ってくるんでしょうか。

 避難民は、死に物狂いの状態で国を出てきています。そして、若い男性は、ウクライナの国境を越えられない、というルールがあるので避難民は、基本的に全員女性と子どもなんですけど、みんなパートナーやお父さんなど自分の家族を置いて逃げてきているのです。これは、相当精神的にもつらい状態だと思うので、そこに対してちゃんと支援をするというのは大事なことだと思います。

 ーー若い男性が召集されるというのは報道で耳にしたのですが、実際にウクライナ国外に出られないというのは知りませんでした。

 私も現地に行くまで、若い男性がウクライナ国外に出られないことを知らなかったので、驚きました。女性と子どもがすごく多いので、なんでだろうと思ったら、ウクライナがずっとそれは禁止しているということでした。

 いつ侵攻を受けるかもわからない状態だったので、男性は軍のトレーニングを受けるというのはあったかと思います。でもまさか国境を越えられず、国のために戦わなくてはならない状態に置かれている人たちが本当にいるんだと感じました。戦争って、国のためとはいえ、命を落とすことを覚悟してやることなんだという壮絶な現実を見ました。私も今20代で、私たちの世代にとって、自分や家族が国のために命をかけて戦うということが、自分たちの生活から現実離れした話だったので、いかに戦争を防ぐかというのが大事なのか、今回わかりました。まさか、こんなことが自分の生きている間に起こるとは思っていませんでした。

↑ウクライナ北部のチェルニゴフから国境まで避難してきたという親子。ロシア軍を見てすぐに車に乗って逃げ、国境を通るのに2日かかったと言っていたそうです。荷物が全くないということでブースで物資を受け取り、温かい飲み物の提供を受けていました(村上財団提供)

■自分のためでもいいから、高校生には社会貢献によるサクセスストーリーを体験してほしい


 ーー村上財団のホームページのプロフィールで学生時代に、非営利団体への寄付や支援に携わってきたと書いてありましたが、私たち高校生・学生・若者がどんな支援ができるか、メッセージをいただけないでしょうか。

 私が財団の仕事をしたいと思った一番のきっかけは、高校生の時にボランティアをしたことです。カナダの高校に通っていて、私の寮では、月に1回日曜日にホームレスの方々の支援に行くというのが義務でした。日曜の朝から教会に行って炊き出しをするのです。カナダの高校に行くまでは、ずっと日本に住んでいたので、ホームレスの方って「話しかけちゃダメ」みたいな印象を持っていたので、接し方がわからず嫌だな、と思いつつ、参加していました。

 実際にボランティアをしてみると、ホームレスの方たちはそれほど怖くなくって、食事を渡すと「ありがとう」と泣きながら言ってくれる方や、仲良くお話しできる方もいました。自分の行動によって、「幸せになったよ」という感謝の気持ちをもらったりして、社会貢献って自分がこんなに幸せになれるんだなということを感じた経験でした。

 なので、高校生の皆さんには、とにかくそういった社会貢献を通じて自分の幸せを感じる経験を積んでいただきたいなと思っています。私はカナダだったりヨーロッパだったり、欧米の教育が長いのですが、海外の学校では、社会貢献に関わる機会がたくさんあるんです。日本だと、あまり高校生のうちに社会貢献をする機会がないのですが、高校生の時にそういう経験をすると自分の中に、自分の行いによって、人も自分も幸せになれるサクセスストーリーができる。そのサクセスストーリーがあると、社会貢献を通して幸せに感じたから、もう1回社会貢献をやってみよう、と将来の行動がどんどん変わっていくんです。

 他人のためというより自分のためでいいので、自分の経験になるようなことをどんどんしていただきたいなと思います。利己的でもいいと思うので、自分がやりがいや幸せを感じられるサクセスストーリーを作っていくということが、社会全体として寄付が増えていくことや、社会貢献への意識のある人たちが増えていくきっかけになると思います。

 今はもう大分減りましたが、寄付は偽善だ、というような言い方をされることもあります。私は、別に全然自分のためでいいと思うんですよね。もうちょっと身近に寄付のようなお金の使い方を考えてもらえたらなと思います。また、社会問題に興味を持ったり、実現したいと思う社会の形があったら、それに対して、寄付なり、ボランティアをするなり、どういうことをするのが一番効率的に、そういう社会が実現できるのかということを考えていただければと思います。

↑中央は、ボランティアで難民センターの運営をされているご夫婦。右端が玲さん。ここ数日、十分な睡眠がとれていないといいながら、笑顔をみせていたそうです(村上財団提供)

■「最も効率的に何ができるのか」という考え方から行動やお金を使うことも大切

 
 自分が目指す社会を実現するために「最も効率的に何ができるか」ということを考えるというのは、私個人と村上財団が寄付をする時に考えることなんです。財団の方では、お金と時間を使っていろいろなNPO団体に寄付していくので、効率性を考えながら寄付をしていますね。

 今回のウクライナのこともそうなんですけど、寄付するのであれば1円あたり、もしくは1時間あたりに使ったリソースが、より効率的に使われて、より社会が良くなるような方法を見つけていくというのは、一つの考え方だと思っています。これは、父の投資部の講義と根本的には似ていると思っていて、株式投資は、自分が興味ある分野とかインダストリーの業種の中でどの会社のリターンが一番大きいか、ここで言うリターンは金銭的なリターンですけど、それを考えて財務諸表を見たり企業訪問をしたりしますよね。

 投資と同じで、興味のある社会課題に対して自分が何をすると一番いいリターンが出るのか。ここでいうリターンは人それぞれだとは思うんですけど、社会へのインパクトだったり、自分が思い描く社会にどれだけ近づけるかということを考えながら支援をするというのを(頭の)片隅に置いていただけるといいかなと思います。

 社会貢献って感情の部分にフォーカスが当たっていることが多いんです。ただ、感情の部分にフォーカスし過ぎると、例えば、100万円寄付したのにほとんど意味がなかったということもあるかもしれません。そういった感情をいったん無にして、冷静に考えた上で寄付をするという方が、一番社会に大きなインパクトがあるのかなと、私個人では思っています。

 それを厳格にやっているのがビル・ゲイツの財団などです。かわいそうな動画を見て堪えられなくて寄付をするというよりは、20年、30年先にどのくらいのインパクトがあって、どれだけの命が守れるかということを見積もった指標に基づいた寄付をしています。せっかくのお金と時間といろいろなリソースを社会貢献に使うのであれば、効率性を頭の片隅に置いてやっていった方が社会全体の利益が大きいのかなと思います。

 村上財団は寄付をする財団なのでこのように考えますが、NPOは、寄付を集めることが大事なので、広報活動のひとつとして注目が集まるような、感情に問いかけていくようなことをするのは重要だと思います。感情があった方が寄付は集まるし、支援は多くなるので、絶対に無くすべきではないと思うのですが、寄付をする機会があったら効率も少し考えながらやるといいのではないかと思います。

↑インタビューに答える村上玲さん(画像下)。とても明瞭で、親しみやすい雰囲気を絶やさずにお話しくださいました。本当に素敵な方でした。

終わりに

 
 
助けたい、支援したい、というきっかけは、感情的なところからでもいい。何なら、そのきっかけとなった感情は、自己満足でもいい……。ただ、その場の感情だけで動いてしまっては、届けるべきところに必要なサポートが届かなくなってしまうから、むしろその感情を押し殺して、効率性ということを考えた方が社会全体の利益になるかもしれない。玲さんの最後に寄せてくださったアドバイスは、投資部の教えとも相通じるものを感じました。

 また、ウクライナの友人の話に「居ても立っても居られない」思いで現地調査に向かうピュアさと、冷静に適正な支援のあり方を検討する知的さを兼ね備えた玲さんですが、インタビュー後は、今までのキャリアを振り返り、「ずっと悩んで悩んで」きて、その時々に「みんながいいということをやってみてという感じだった」と微笑みながらおっしゃていました。迷いながら経験を積む中でライフワークに見つけたことが「社会貢献」で、その原点となったのが、カナダの高校時代に義務として体験したボランティアだったそうです。玲さんの体験談は、私たちが今踏み出した一歩が、何かに結びつくかもしれない可能性を物語ってくださっているようにも思いました。
 
 最後に、ウクライナの壮絶な現状や、当たり前のように市民が立ち上がって避難民を迎えるポーランドの様子など、現地を訪れなければ聞くことができないたくさんの貴重なお話をしてくださった村上玲さんにお礼を申し上げます。

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