娯楽としてのプレゼンの世界
取材・文=Seitaro Hagihara(S高1期生/通学コース)
日本に住み、通信制高校の生徒である私にとって、プレゼンという響きは何か西海岸的な縁遠い習俗のように思われた。それは誇らしくiPhoneを手にするスティーブ・ジョブズであり、人文学的にアリストテレスであり、少なくとも上場企業の営業マンぐらいではありえたかもしれない。だが、この学園には、決められた毎週の営為として、実に気安くプレゼンにいそしむ団体がある。
インタビュイー
- ナユタ(通学コース/プレゼン同好会 創設者)
- りゅうな(通学コース/プレゼン同好会 現会長)
自己紹介をお願いできますか。
ナユタ:ナユタと言います。大宮キャンパスの六期生で、三年間ずっと週五コースです。プレゼン同好会を二年生の秋頃につくりました。現在は百名以上の参加者がいます。僕が会長をしていたときは、Slack上でミーティング形式の定例会を行ったり、月一、二回くらいの頻度でイベントを行ったりしていました。
元会長なんですね。
ナユタ:三年生になり、引退せざるをえなかったんです。でも、普通にするのは面白くないなと思いました。そこで、去年の磁石祭企画にあたり、運営に贈賄をしたという虚偽の不祥事を自らでっちあげ、学生服を着て、謝罪会見を行い、辞任しました。
支離滅裂に聞こえます。
ナユタ:呼んでないけれど、なぜか記者もきましたね。そして(もちろんプレゼンで)新会長決定戦を行い、りゅうなさんが勝ち上がりました。いや、当然わいろはしていませんよ。
どういった経緯でプレゼン同好会を立ち上げましたか?
ナユタ:一年生の春に参加したオープンキャンパス(通学コース体験会)を機会に、初めてプレゼンをして、ハマりまして。二年生の九月くらいまでは、正直僕、メンタルボロボロだったんです(笑)。けれど、色々を経て少し持ち直してきたから、本格的にSlack上の活動を初めてみるか、と思い、つくりました。
かなり規模の大きい同好会ですが、どうやって参加者を集めましたか?
ナユタ:最初の頃は、こんな同好会あるよってDMに突撃したり(笑)、宣伝チャンネルを多少使ったりしましたが、たぶん、一番大きかったのはイベントの開催ですね。月一、二回のイベント毎に、いろんなチャンネルを借りて告知したら、どんどん人が増えていった感じがします。
アクティブな同好会ですよね。ちゃんと毎週活動していますし。
ナユタ:今や三、四人ということはあまりなくて、毎回ハドルミーティングに十人くらいは来てくれます。本当にありがたい。
プレゼンにハマった、とのことでしたが、本当にいつもウキウキしながらプレゼンしていますね。そこまで取り憑かれてしまうほどの、プレゼンの魅力とはなんなのでしょうか?
ナユタ:結構最近まで、わからなかったんですよ。自己分析とか面倒くさくて、あまりしてこなかったので。でも気付いたのは、そもそも僕、目立ちたいんです。
知ってます。
ナユタ:それと似ていて、人の感情を動かしたいのかな。感情の中で、一番目に見えるものは笑いだと思うんですよ。オープンキャンパスで初めてプレゼンしたとき、「ここで笑わせよう」みたいなポイントをいくつか用意したんです。そしたら……ちゃんとウケたんです(笑)。そこで「楽しいな、プレゼン」って実感したことがきっかけかもしれません。
プレゼンを通じて、多くの人を笑わせたり、影響を与えたりすること自体に喜びを見出していると。
ナユタ:見出してしまっていますね。
プレゼンという言葉だけを聞くと、私はどこか高尚で敷居の高いイメージが先行してしまいます。プレゼン同好会は、会長がそうであるように、もっとカジュアルで様々な方向に自由な土壌を感じます。
ナユタ:プレゼンの好きな人同士が集まれば良いかな、程度に思っていたんですが、僕と似たような人たちが集まってきて。そもそも僕はエンタメとしてのプレゼンが好きだから、そればかりやっていたら、周りもやりだしました。そのうち段々とおふざけテイストになり、気が付いたらこんなありさまに。
でも、たまに真面目なプレゼンもしていますよね。
ナユタ:あります。ちゃんとあります。ちゃんとあります。
そこのバランスですね。ふざけることもできるけれど、稀に真っ当なプレゼンの練習台につかう人もいる。NED*1のような活動に出ることもある。極端ですが。
ナユタ:はい。
テーマの自由さという点では、私も過去、愛するフォント「Helvetica(ヘルベチカ)」に関するプレゼンをしました。九割がた自己満足でしたが、なかなか楽しかったです。
ナユタ:それも中々変態的なプレゼンでしたが(笑)、推し活なども大歓迎です。人前で話したらプレゼンです。たとえコントしようと。
これまで多種多様なプレゼンがなされたと思いますが、特にピックアップするとしたら?
ナユタ:去年の磁石祭ステージ企画です。僕と元運営が「きのこたけのこ戦争」をしました。まず元運営がきのこの素晴らしさをプレゼンし、続いて僕がたけのこの素晴らしさをプレゼンするという。
うん?
ナユタ:もとは別のテーマを考えていたんですよ。ただ、元運営が「俺きのこやるからお前たけのこやれ」と言ってきて、僕たちが大トリだったんですが、最終的にきのこたけのこ戦争の企画みたいになりました。
それ以前にまともな企画はあったんですよね?
ナユタ:e-Sportsめしプロジェクト*1の優勝チームがアイデアを発表したり、めちゃめちゃプレゼンの苦手だった人が磁石祭ステージに立てるまでになった成長ストーリーのプレゼンとか。……(きのこたけのこの企画)あれは悪ノリでしたね。
*1 N/S高等学校、水海道第二高等学校、株式会社ローソンの合同プロジェクト。e-Sportsシーンを支援する新たな食料品を開発し、一部の優秀企画が実際に関東圏のローソン店舗で販売された。
磁石祭ステージ企画は、同好会が学園内で実現しうる最も大規模な活動のひとつだと思います。そこできのこたけのこ戦争ができたなら、もはやなんでもできる団体ですね。
ナユタ:いや、事前段階で結構怒られました。なぜなら、きのこたけのこ戦争における最大の問題は、著作権なんですよ。スライド内でふんだんにきのこたけのこの画像を用いるので、元運営はモザイクを加え、僕は実際に買ってきたたけのこの里を撮影して、背景を透過したりしました。ちゃんとルールは守らないと。
怒られる争点が、きのこたけのこ戦争をステージで実施すること自体ではなく、著作権というその過程なんですね。
ナユタ:そうですね。(企画は)いけちゃいました。
今年の磁石祭はどうですか?
りゅうな:落ちました。なんででしょうね。
ナユタ:誰のせいでしょうね。
りゅうな:磁石祭2024の企画募集フォームの締切は一度延長されたんです。ということは、企画数が少ないのかな、ならプレゼン同好会は通過したかな、と思い発表日にGmailを開くと……落ちている。
昨年度が原因かはわかりませんが。
ナユタ:出禁ですね。でもこの話、オチがあるんですよ。
りゅうな:どうしても、どうしても、磁石祭に出たかったんです、私。それでググったら、「ニコニコ超会議 クリエイタークロス*1」なるものを見つけて、プレゼン同好会名義で応募しました。そしたら当選したんです。
ナユタ:更に裏話として、このブース出展にあたり、「N/S高という名前を使って良いのか?」という議論がありました。そのことについて、とある職員さんに連絡したら、磁石祭職員が全員DMに追加され、相当な質問責めに遭いましたが……。
りゅうな:結果的にオッケーがでました。N/S高の名前、使います!
現在と比べて、プレゼンを始めたばかりの頃は躓きもありましたか?
ナユタ:実は、先に挙げたオープンキャンパス以前に、一度だけプレゼンしたことがあります。一年生になって初っ端のプロジェクトN*1のプレゼンターが僕だったんですが、だいぶひどくて。めっちゃ詰まったし、足が震えたし、班員の人から「プレゼンター変わりましょうか?」って言われたくらいなので。
あなたやプレゼン同好会のメンバーを見ていると、先天的にプレゼンの得意な人はあまりいないようにも思えます。プレゼンも訓練次第でしょうか。
ナユタ:何に対してもそうですが、プレゼンは特に爆発です。やったぶんだけうまくなります。素質も大事だけれど、それよりもマジで数です。
キャンパスにいる何十人かの前でやらかすよりは、先ずプレゼン同好会でふざけながら失敗したほうが、まだましかもしれないですね。
ナユタ:そういった意味でも、プレゼン同好会を練習の場として使ってほしいという気持ちはあります。
プレゼンを練習する直接的なメリットは?
ナユタ:喋りを鍛えられます。それだけなら他の方法もありますが、プレゼンの良いところは、同時にスライドのデザイン技術も鍛えられる点です。喋りがうまくなると、もちろんスピーチやディベートに役立ちますし、デザインがうまくなると、ものづくりなどにも応用できます。
聴覚と視覚、伝える媒体がふたつあるということですね。ネタのスライドばかりつくっている人もいますが。
ナユタ:一応、デザインも上達してはいます……。
この記事を読んでいる人には、プレゼンに興味があったり、実際に行う機会のある人も居ると思います。そういった方々に、アドバイスをいただけますか?
ナユタ:喋れる人たちって、普段から喋っているんですよ。プレゼンを上達させたいなら、あらゆる機会を利用してほしい。N/S高には、実はプレゼンするチャンスがたくさんあります。全部挑戦してください。全部。結局プレゼンは爆発なので。
プレゼン同好会が気になりだした方に、勧誘のプレゼンを。
ナユタ:本当にフラットな同好会です。だいたい何をやっても許されるので、ぜひきてください。
りゅうな:今日もチャンネルを確認したら、新しい方が参加してくださっていて、改めて大きな同好会だと感じました。プレゼン同好会を通じて良い経験をしてほしいですし、思い出づくりとしても、気軽に入ってきてほしいと思います。そのときは温かく歓迎します。
ナユタ:誰でも大歓迎。
りゅうな:ナユタさんはもうすぐ卒業してしまいますが、私はまだ一年生なので。縁があればよろしくお願いします!
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