教育産業室長に聞く 経産省が描く「未来の教育」とは?
取材・文=𠮷川幸歩(N高7期・通学コース)
写真=King(S高1期・ネットコース)
教育、といえばあなたは何を思い浮かべるだろう。
学校、教師、机、参考書、筆箱など、身近な人や物をあげる人もいれば、成績や教育論について理想を語る人もいるかもしれない。
2月上旬、未来の教育を考えるイベント『Future Learning Festival』(以下FLF)が、渋谷のFabCafe Tokyoで開催され、角川ドワンゴが主催するStudent Learning Lab (以下、SLL)を中心として、教育に興味関心を持った中高生が探求したテーマについて発表した。
SLLとは、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する、全国各地の中高生を対象とした未来の教育について考えるコミュニティーだ。令和4年度(2022年度)経済産業省「未来の教室」実証事業 採択事業。
今回は、「未来の教育」を行っている、経済産業省の教育産業室長である五十棲浩二(いそずみこうじ) 氏にインタビューすることができた。
お話をしてくださった方
五十棲 浩二 氏
経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課 教育産業室長
経済産業省と教育の関係
なぜ経産省は、未来の教育を推進しているのでしょうか。
いわゆる公教育分野は文部科学省(以下、文科省)が所管していますが、公の学校教育の外にある民間教育、例えば学習塾やピアノ教室、そしてAIドリルをはじめとするEdTechといった民間教育サービスは経済産業省(以下、経産省)が所管しています。そして、特にデジタル化が進む中で、公教育の中の学びと、公教育以外での学びが重なり合う部分が増えてきています。
例えば、コロナの休学中には家からインターネットを使って学ぶという形が一般化しました。また、多くの学校でもデジタルツールを使うことが増えています。また、『7割は学校で学ぶけれど、3割は学校の外で自分の好きな何かを学ぶ』といった人も今後増えていくでしょう。
既にサッカーやピアノ、プログラミングなど、そういうことを学校の外でも学んでいる人はかなり居ますよね。デジタル化が進むほどに「学校」という垣根を越えて、公教育と民間が重なり合っていく。そして、デジタルを通じて教育が変化していく部分に「未来の学び」があるのではないか、と考えて経済産業省でも取り組んでいます。
・・・と、「なぜ経産省が教育に関わるのか」という質問をされると、こういった「所管」といったことで説明をしたりしますが、本来、学校教育は文科省だけに丸投げするのでなくて、厚労省や経産省などいろんな役所が関わるべきだと思っています。
教育の現場である学校で例えると、『教育は先生だけがやればいい』と地域の人が無関心だったり、福祉に携わる役所の部署が教育と無関係に動いたりするのではなく、学校教育に福祉関係の方、地元の企業、地元の住民の方々など皆さんが関わったほうが良いと思っています。
学校教育をより良くしていくためには、みんなで当事者意識をもって教育をよくしていこう、考えていこうとすることが必要だと思います。したがって、我々の目標は、『なんで経産省が教育に関わっているの?』と聞かれるのではなく、「関わって当然だよね」といわれる環境を作っていくことです。
学生の私も、教育機関一つに集中するより、多様な場所の多様な人が関わっていてほしいなと思います。
FLFのイベントに参加して
実際に学生の出したアウトプットを聞いて、どんなことを感じられましたか。
みなさん学校教育の中で、自分の夢とかやりたいことを語り合ったりする場所がほしいのだな、ということを改めて感じました。
みなさんの提案は、当然少しずつ角度は違うのですが、自分達のキャリアを考えるとか、夢を考えるようなものが多かったです。それは、キャリアや夢を考えることが学校の中では十分できていないということの裏返しで、学校教育全体に宿題を出されたような気持ちでもあります。
また、あるチームの生徒が、学校を変えようとして無理矢理方向転換をさせるより、学校の外に色々なものを作っていくことで、学校教育に十分ではないものを補っていくという考え方もあるのではないか、その方が色々なものを選べるし、多様な出会いがあって良いのではないか、ということを言っていました。このような柔軟な発想を大切にしたいですね。
我々も「学びのサードプレイス」を創っていこう、という活動をしています。このFab Cafe もそういうサードプレイスの一つだと思いますが、学校外の学びの場の大事さも改めて感じました。
N/S高生の特徴として、どんな印象を受けましたか?
特に、今日来ていた生徒は自分で動ける子たちが多いな、という印象を受けました。全日制の高校生の中にも自発的に動ける生徒はたくさんいますが、今日来ていたN/S高生たちは、やりたいことをはっきりと持っている上に、いい意味で大人を使い倒すという意識と能力がすごく強くて頼もしいな、と感じました。
一方、今ここに来てくれている生徒さんはN/S高の中でも特に活発な生徒さんで、N/S高生の中にも、なかなか自発的に動けない子たちがいっぱいいるのかもしれないな、とも思います。N/S高に通っている皆さんから見て、実際どうですか?
もちろん今回のSLLのように、活発に活動している生徒もいれば、学校ではあまり活動をしていない生徒もいます。それこそN/S高は通信制ですから、生徒が何もしなかったら何もないです。
しかし、今回のSLLであったり、何かをやりたいと強く思った時にそれを実現できるだけの環境は整っているので、生徒一人ひとりが思うように動ければ一番いいかなと思います。
最後に
今後の日本の教育現場に期待することは何ですか?
色々なメディアでは学校が批判されることも多いですが、一方で、1学年100万人くらいの子どもたちに、これだけ環境が整った教育ができている国は珍しいです。
また、日本の学校の先生方は能力がとても高く、生徒に何かをやってあげたいという気持ちがとても強い。ただその分、「あれもこれもやってあげよう」となって余白を埋めすぎてしまっているところもあるのかなと感じています。
少しだけ引いて、教えるのではなく子どもたちと一緒に考え、驚く余裕が生まれてくると、学びの場はより豊かになるのではないかと思っています。そのような環境をつくるために、我々も頑張りたいと思います。
デジタルが世界に進出した影響で、オンラインのコミュニティーが広がっていて、それこそ広島(※取材者は広島在住)に住んでいても東京の人とコミュニケーションが取れたりやりとりできる。こんな風に、10年前はできなかったけどできるようになってきました。
自分が「こうしたいのに」って思っていてもできなかったことが、今はオンラインで少し動けば同じ気持ちを持った人と議論できる環境っていうのが、東京に限らずニューヨークでも上海でもシンガポールでも、あるいはヨーロッパでもどこにでもあるんです。
教育現場にいる先生や生徒が、思い切って外にある力を使ってくれると、案外世の中捨てたもんじゃないと思います。だからどんどん利用して、楽しんでくれるようになったらいいなと思いますし、先生もちょっと引くことで余白ができて、時間を作ってみると生徒にとっても良くなる部分があるんじゃないかなと思います。
あとがき
今回、五十棲氏に話を伺い、文科省だけではなく、経産省をはじめとしたさまざまな人たちが関わっていくことによって、教育は少しずつ変わっていくのではないかと感じた。
これからの経産省の取り組みにも期待しつつ、自分で「未来の教育」を描いてみたい。
この記事を読んだあなたは、この先どんな「未来の教育」を思い描くだろうか。
コメント
コメント一覧 (1件)
「未来の教育」という事業(?)はよく聞いたことあったけど、実際にどういうことを考えているのかを知れてよかったです。あと、未来の教育とN/S高の教育を考えた時にもっと自分の環境を生かしていきたいと思いました!