LGBTについて考える第3弾 虹のかかった僕らの学校
Allyという言葉を聞いたことはありますか?
前回から記事を読んでくださっているみなさん、こんにちは。初めて読んでくださる方は、初めまして。N/S高新聞ライターでLGBT(※1)当事者のりたです。
Allyは英和辞典で調べると、「味方」と出てきます。
ここでのAllyとは、「LGBTを理解・支援する人」のことです。初めはストレート(※2)の支援者をAllyと言いましたが、現在は当事者であってもAllyという言い方をするようになりました。多様性が重視されるようになってきた現代。みなさんで一緒にAllyの仲間入りをしませんか?
「そう言われても何をすればいいの?」
と思った方! まずはどんなことがLGBT当事者にとっての悩みとなるか、そしてどのような対応が求められるかを、今回は学校生活に焦点を当てて見てみましょう。
N/S高においてLGBT当事者へおこなっている対応について、養護教諭の福井先生にお話を聞きました!
※1 LGBTとはセクシュアルマイノリティ(性的少数者)のことで、女性の同性愛を指す『レズビアン』、男性の同性愛を指す『ゲイ』、男女どちらにも性愛感情が向く『バイセクシュアル』の3つの性的指向と、性自認と身体的性が一致しない人々を指す『トランスジェンダー』の各単語の頭文字を取ってLGBTと言う。近頃はさまざまなジェンダーやセクシュアリティをまとめてLGBTQ+と表すことが多い。
※2 LGBT当事者以外の人を指す。
福井(ふくい)絵理華(えりか) 先生
写真は沖縄伊計本校がある伊計島(いけいじま)の海だそうです。
透き通った青い海がきれいですね!
はじめに
ーー本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ーーはじめに、簡単に学園でのお仕事や役割について教えていただけますか?
はい。私は福井絵理華といいまして、角川ドワンゴ学園で養護教諭として働いています。 学園の養護教諭は主にスクーリングの際に、体調不良者や怪我をした生徒、何か相談事があるという生徒の対応をしています。
学園でのLGBTに関する相談
ーーN/S高に勤めていて、直接的または間接的にLGBTに関する相談を受けたことはありますか?
そうですね。何回かあります。あまり細かく数えたことはないものの、私が対応した生徒さんは年間10人程度はいるのではないかと思います。
ーーちなみに、そのLGBTに関する相談はどの立場の方からが多いのか、よければ教えていただけますか?
私が対応していなくて認知していない件もあると思いますが、私が受けた相談で言うとトランスジェンダーの方が多いですね。その中でもFtM(※3)といわれる生徒さんが多かったという印象があります。
※3 Female to Maleの略で、身体的性が女性で性自認が男性の人を指す。
学園での対応について
文部科学省より2016年に発表された「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、 児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について (教職員向け)」(※4)にて、教育現場におけるLGBT当事者の児童生徒への対応がいくつか挙げられていますが、その中でもN/S高に関わるものをピックアップして詳しくお聞きしたいと思います。
※4 性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)
文部科学省のHPより引用
制服
ーーN/S高のホームページではN/S高の制服が男女別で紹介されていると思いますが、制服を着る場合は「戸籍上の制服を着なければいけない」などといった規則はありますか?
制服は基本的に自由となっています。例えば「男性だからスラックスを買わなければいけない」ということもないですし、購入自体も必須ではないです。で、もし必要な方は必要なものを選択して購入していただければ大丈夫です。
ーー特に先生への相談などはいらないということでしょうか?
そうですね。購入の申し込みだけで大丈夫です。
ーーなるほど。
制服から少し話が逸れてしまうかもしれないのですが、スクーリングで体育の実技がある時にふさわしくない格好、例えば短いスカートや高いヒールを履いているなどという場合は、女の子男の子といった性別とは関係なく安全面の理由からお声がけすることはあります。 そういう場合以外で「なんでスカートを履いているの?」といったような、服装に対して注意することはないです。
トイレ
ーー心と体の性別があってない、いわゆるトランスジェンダーやそれに近い生徒さんに対してトイレ利用に関する配慮はありますか?
スクーリング会場によっては多目的トイレがある会場もあります。それは利用してもらって全然構いません。 ですが、もともと男女のトイレしかないという会場もあるので、そこの利用に関してはスクーリングの前に生徒さんとどういう対応が一番いいのかを相談します。
呼称
ーースクーリングの際に呼ぶ名前や学生証の名前を通称名(※5)に変更するなどといったことは可能なのでしょうか?
※5 戸籍上の名前でないが、世間一般において使用しており、通用している名前のこと。
スクーリングの際の呼び方は基本的に『苗字+さん』という形にしています。N/S高のような通信制高校だと登校する回数がすごく限られているので、通称名だとその生徒さんが本当に出席しているのかどうかという判断がつかなくなる可能性があります。基本的には通称名を利用せず、『苗字+さん』の形で、下の名前を呼ばないという方向でできないか、という相談をさせてもらっていますね。
ただ、今後戸籍上でも変更を考えているということがあれば、どういう手続きが必要かなどを相談できる部署もあるので、その担当者に相談してもらったらまた詳しく今後の対応についても相談できます。ですから、そこは安心していただければと思います。
ーーありがとうございます。今のお話はスクーリングの際に呼ぶ名前についてでしたが、学生証の名前についてはどういった対応をされていますか?
そうですね。学生証は基本的には戸籍上のお名前になっているかと思うのですが、こちらもスクーリングの際と同様で、今後戸籍上でも変更の予定があるなどといった場合には相談していただければと思います。状況に応じて変更できる場合もありますが、そこに関してもやはり個々の事情に応じてということにはなるので、とりあえずは相談できるということだけは知っておいてもらえたらと思います。
宿泊行事
ーーN/S高では宿泊行事は比較的少ないと思うのですが、それでもやはり宿泊型スクーリング(※6)や宿泊型の職業体験(※7)はありますよね。その場合、お風呂や部屋割りはLGBT当事者にとって一番ネックになると思うのですが対応はどうされていますか?
※6 本校スクーリングのことで、N高生は沖縄伊計本校・S高生は茨城つくば本校のスクーリングに原則2年次に参加することになっている。
※7 N/S高生が参加可能な課外学習のこと。
お部屋に関しては、ホテル側でおさえてもらえる部屋数などに限りがあるので、個別に対応するのは実際問題として難しくはなってしまいます。通学型スクーリングでしたらご自身でホテルを手配できるので、そちらのご案内をすることもありますね。
ーーなるほど。
入浴については、N高の沖縄スクーリングとS高のつくばスクーリングで少し対応が違ってきます。つくばはホテルのお風呂は基本大浴場なのですが「何がなんでも大浴場に入りなさい」ということはなく、どんな対応ができるかということを本人の事情に応じて相談するので、ご安心いただければと思います。
まとめ
ーーお話を聞いた限りですが、個々のケースによって対応にばらつきがあるのですね。
そうですね。やはりLGBTという括りの中でも様々なジェンダーやセクシュアリティがあったり、人の考え方もそれぞれ違ったりすると思います。それと同じように「困る」という感覚においても「このケースはこういう困り感がある」ということではないので、一人ひとりの困っている点やどういう対応が必要かということは相談するようにしていますね。
ーー確かにそうですね。自分もLGBT当事者として、同じLGBTでも一人ひとり違うところがあるということは実感しています。
学校としても、いい意味でパターン化しないって言ったらいいんですかね、「この相談に対してはこう対応したらいい」というのは一般論や過去のケースであって、本当にその生徒にとって必要なものなのかどうかは、その生徒に確認しないとこちらの押し付けになってしまいますから。そうならないように、事前のヒアリングや個別で相談を受けるということは大切にしようと、学校としては心がけていますね。
ーーそうですよね。ありがとうございます。
相談先について
ーー相談については保健室の窓口(※8)などいろいろありますが、どこから相談すればいいのかを教えていただけますか?
※8 N/S高マイページのお問い合わせ欄に「保健室相談窓口」というものがある。
結構たくさん窓口があるので迷っちゃいますよね(笑)。
保健室の相談窓口では所定のフォームに相談内容を記載していただきます。そこから相談していただいてもいいですし、フォームに書くということの方が話すよりもハードルが高いと思うのであれば、一旦メンターの先生に伝えてみてもいいです。欲しい回答が得られるところがどこか一緒に考えるなど、親身に相談に乗ってくれると思います。あとは、スクールカウンセラーの先生もいますので、カウンセラーと話したいということであればそちらに相談していただいても大丈夫です。「どこでもいいよ」と言うと、投げやりな感じになってしまうのですが……。学校のスクーリングについて、例えば出欠の確認や宿泊行事の配慮に関しては、スクーリングの問い合わせや保健室相談窓口がいいと思います。あとは、スクーリング当日にキャンパスにいる養護教諭には、その場で困りごとなどがある場合にすぐ相談できるので、そういった感じで使い分けてもらってもいいかもしれませんね。
メッセージ
ーー最後にカミングアウト(※9)している生徒もできない生徒も含めて、すべてのLGBT当事者である生徒に伝えたいことはありますか?
※9 性的少数者であると公表すること。
先ほどお話ししたように困ると感じる点というのは人それぞれ違っていて、私たちは見ているだけだとわからないので、お話しする中で知るしかないんですよね。ですから、ぜひとも何について困っているかということは相談してほしいと思います。あとは伝えられる先生とそうじゃない先生がいたり、逆に学校の先生じゃない方が伝えやすいということもあったりすると思うので、誰に相談するのかについてもやはり、こうじゃないといけないなどと思うのではなく、話せる人に話せるタイミングで打ち明けてもらえればいいなと思います。
終わりに
インタビューを通して、N/S高ではLGBT当事者の生徒に対し、柔軟な対応が取られていることが分かりました。生徒それぞれの想いを大切にしてくれるN/S高……。N/S高には約2万5千人(※9)の生徒がいます。一人ひとりの想いに寄り添うことは易しいことではありません。それでも、多様性が重視される時代に設立されたN/S高は、僕を含む生徒みんなが学校生活をより楽しく過ごせるよう尽力してくれているのですね。
※10 2023年5月1日時点
今回インタビューさせていただいた福井先生とは、インタビュー後、感想を交えて少し雑談をさせていただきました。その際には、インタビューの時の真面目な様子とは変わって、親しみやすい雰囲気でお話をしてくれました。きっと普段は優しく柔らかい先生。でも、相談や真面目なお話には真剣に耳を傾けてくれる。そんな先生じゃないかと、僕は感じました。
前回の記事でお話しした通り僕は精神疾患を抱えているため、養護の先生との関わりが多いのですが、どの先生もとても話しやすいです。インタビューの中でも言っていた通り、その場その場で相談するべき人は変わってくるかもしれませんが、ぜひ養護の先生にも相談してみてください。親身に相談に乗ってくれます。
今回でLGBTの特集は最後になりますが、LGBTについての理解は深まったでしょうか? 少しでも理解する助けになれたようでしたらうれしいです。
小さな幸せは身近なところから。それは、すべての人がより幸せに生きられる世界を実現させることにつながります。LGBT当事者である方々には、仲間がいること、理解してくれる人がいること、それを忘れずにいて欲しいです。
では、またどこかでお会いしましょう!
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