家に居場所がない? 大丈夫、一緒に動いてくれる人、考えてくれる人がいるよ

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取材・文=まどやん(N高5期・通学コース)

みなさんは、トー横キッズという言葉を知っているだろうか。
新宿区歌舞伎町に位置する新宿東宝ビル周辺、通称「トー横」に集まる若者たちのことだ。
そして東京だけではなく、大阪心斎橋にある観光名所「グリコサイン」下にも同じように若者が集まる。こちらは「グリ下」と呼ばれ、道頓堀の戎橋下を中心に若者が集まる。
彼らが集まるのは昼間だけでなく、日が暮れても家に帰らない者もいる。
最近では、彼らが傷害事件をはじめとする犯罪に巻き込まれたニュースを目にすることも少なくない。

どうして彼らは集まるのだろうか。それは、彼らの多くが家や社会に居場所を感じられないからではないか、とNPO法人子どもセンターぬっく(以下ぬっく)の森本志磨子さんは語る。

彼らと同世代の私たちは、社会課題となりつつあるこの現状から目を逸らしてよいのだろうか。
この記事を通して読者のみなさんには、当事者の方々を支援する団体の存在と支援内容を知ってもらいたい。

森本 志磨子(もりもと しまこ)さん
弁護士、NPO法人子どもセンターぬっく初代理事長。
2016年4月から2022年6月まで理事長を務め、現在は理事としてぬっくで活動している。
引用:https://www.nukku.info/about/index.html

目次

自立のためのサポート

ーーさっそくですが、ぬっくでは具体的にどんな支援が行われているのでしょうか?

虐待等さまざまな理由で、家で安心して生活できない状況になっても、10代の子どもにとっては、家以外に安心して生活できる場所がないことが多いです。そのため、概ね義務教育を終えた15歳から19歳くらいの女子が、一時的に避難できる家「子どもシェルター」を2016年4月から運営しています。子どもシェルターでは、スマホを預かり、外出も職員らと一緒の場合に限っています。このようにしてまずは安全を確保した上で、心と身体をゆっくり休めることと、次の居場所を探すことを目的としています。通院したり等心身を休めることを主眼とし、場所も非公開としている子どもシェルターからは、原則として登校したり就労したりできないため、入居期間はだいたい2ヵ月程度まで、としています。定員は6名です。

また、2020年4月からは、通学したり仕事やアルバイトをしたり等社会生活をしながら、自立の準備をするために、半年から2年くらいの間、共同生活をする場所として、「自立援助ホーム」を運営しています。定員は6名です。

2017年からは、10代、20代の居場所のない子どものための電話相談を始めました。子どもシェルターと自立援助ホームは、おおむね10代後半の女子を対象にしていますが、電話相談では、性別を問わず10代20代くらいの若者を対象にしています。他の親族宅や友人宅等への避難の可能性を一緒に考えたり、他の自立援助ホームを紹介したり、生活保護の申請等をサポートして相談者が1人で生活できるようにしたり等、家庭に代わる生活の場を一緒に探すという活動もしています。

ーー女子だけでなく、男子のサポートもしているんですね。

そうですね。義務教育を終えた高校生年齢の子どもたち(中卒や、高校を中退した者を含む)は、男女を問わず、児童福祉制度や法制度のはざまにあります。家庭の代わりとしては児童養護施設や里親家庭が考えられますが、いずれも高校生年齢となった子どもたちをほとんど受け入れていない実情があります。

かといって、とくに15歳〜17歳の場合には、未成年であるがために、一人では、家を借りることもスマホの契約をすることもできず、仕事もなかなか見つけられなかったりします。マイナンバーカード等の身分証明書や国民健康保険証の申請、取得等の手続きを行うことも、困難が伴います。それに、居場所を失い心身に傷つきをもった高校生年齢の子どもたちが、仕事を続け、きちんと食事をして掃除などの家事をこなし、お金のやりくりをし、孤独やさまざまなストレスを解消していくことができる等、経済面だけでなく精神面でも周囲のサポートなしに一人でマネジメントできる、ということは、ほとんどありません。そのため、男女を問わず高校生年齢の子どもたちには、とくにサポートが必要です。

また、とくに女子は、ネットで「泊まるところがないので一晩泊めてほしい」等と呼びかけると、加害男性とつながってしまう危険性があります。たとえば、最初は「ご飯を食べさせてあげる」「泊めてあげるからおうちへおいで」等と誘われ、行き場がないためについていくと性的被害に遭う、といったことも起きています。しかも、性被害を受けているのに、「ついていった私が悪いんだ」と自分を責めてしまうことも少なくありません。さらに、行き場を失った女子は、自己肯定感が低く、心身も不安定であることが多く、急な休みに対応してもらえ、短時間で高収入、日払いや週払いをしてもらえ、時には寮等の生活の場も提供してもらえる性産業に取り込まれてしまうことも、少なくありません。そういうことで女子を対象にしています。

人として尊重してくれる支援者を

ーー助けを求める場所がネットしかないという方もいるんですね。ぬっくではどのような方法で当事者のSOSをキャッチしているのでしょうか?

ネットは、相手の顔も身元も年齢もわからないし、女性だと思っていたら男性だったということもあります。また、ネットでの文字のやりとりだけでは、相手の真意をつかむこともとても難しいんですよね。私たちのことは、ネットで検索して知ってもらい、最初はメールで相談を受けるということもありますが、できるだけ早期に、一度電話で話せないか、と提案するということを行っています。

電話をすると、本人がずーっと泣いていたり、耳をすまさないと聞こえないようなか細い声だったり、背後から本人以外の声が聞こえたりすることもあります。それだけでも本人が置かれている状況が少しわかることもあります。ですから、私たちはできるだけメールから電話へ、電話から面談へと、切り替えています。

家を離れるというのは、これから自分で人生を歩んでいくという大きな決断になります。子どもが家を出る、ということは、親と対立関係になり、今後、親からの経済的・精神的支援は一切受けられなくなるリスクがあります。その可能性を考えてもなお、親以外の人からのサポートを受けながら自分の人生を今後歩んでいきたい、と思えるかどうかをいっしょに考えます。

シェルターに入っている間は基本的に通学も就労もできず、スマホも使えないので、それでも心身を休めるという選択を子どもが希望し、それが必要な状況にあるのか、どのくらい緊急性があるのか等を、私たちも考え、判断する必要があります。

ーー接触してくる人の中には加虐心を持つ人もいると思いますが、ぬっくのような活動団体の方を見分ける方法はありますか?

名前のみやLINEのみだけではなく、郵送可能な事務所の住所や連絡先、支援内容を明らかにしているかは大事だと思います。ホームページ等には、どれくらいの期間活動しているのか、どんな人が代表でどんな理念でやっているのかなども書いているので、それらを見るのも大事ですね。Googleマップなどで、事務所が実在しているか等は確認してほしいです。

直接支援者と会うことがあるならおかしな言葉遣いや怪しいことを言っていないか、「女の子」ではなく人として尊重してくれているか、そのあたりも大事です。相手が異性の方でもそうですが、同性だったとしても。

私たちは本人の身分証を確認したり、もし家を出るとした場合、親御さん、バイト先、学校、彼氏等に、いつ、誰が連絡し、どのように説明するかなども、本人と時間をかけて一緒に考えています。「とりあえずおいで!」ではなく、次に起こり得る事態を想定し、そのことについても本人に情報提供しながら、事前に本人と一緒に考えます。家を出るというのは、大きな決断であり、私たちは、全力でサポートしますが、代わりにその人生を背負うことはできないのです。

切羽詰まっていると判断を見誤ることもあると思います。それでも、「ちょっと危ないかな、大丈夫かな」という不安が少しでもあれば、その直感を信じて、確認したり、立ち止まってほしいです。

ーーさきほどの話でも出ましたが、ネットでは家出した若者に「家に泊めますよ」という人もいますよね。

家だけ提供したらよいということではないんですよね。関わりが大事なんです。私たちのシェルターでは、一緒にご飯を食べ、一緒にテレビを観て、一緒に散歩して、話をして・・・など、生活全般を通じて、「あなたは大切な人」「ひとりぼっちじゃない」「自分の人生を選び、歩めるんだよ」というメッセージが伝わるようにという思いでサポートしています。どうすればこれらが伝わるんだろうかと悩みながら、日々子どもの思いや気持ちに関心をもち、寄り添い、尊重するということを大切にしています。

私はおそらく当事者の方と同世代で、大阪道頓堀にも行ったことがある。
もしかしたら、居場所を感じられず仲間を求めて夜の街を歩くのは私だったかもしれない。今までがそうじゃなくても、これからそうなるかもしれない。
そう考えると、ニュースで報道されているような事件もいつかは私が被害者として巻き込まれるかもしれないということを頭に入れ、社会の現状を他人事と思わずに自分事と捉えないといけないのではないだろうかと思う。

今回森本さんにお話をうかがい、世の中には家以外にも居場所があることを知ることができた。読者のみなさんにも伝わったのではないだろうか。
そして大切なのは、トー横やグリ下を封鎖したりそこから当事者を追い出すのではなく、安定した食事と安心安全な生活環境が得られる居場所に移すこと、つまり現状から脱却するために誰かが寄り添い支援することだと考えるきっかけになった。

もしも今家に居場所が感じられない人がいるなら、ネットで助けを求める前にぬっくのような支援団体を調べてほしい。正規の支援を受けることで、きっと新たな居場所を見つけることができるはずだ。

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