【新R25コラボ企画】今の「ムダ」は「ムダ」じゃない!! 背景グラフィッカー吉田誠治さんに聞く“はたらく”ということ

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取材・文=機械音痴のいふぁ(S高3期・通学コース)

今回は、「“はたらくWell-being”を考えよう」というテーマのもと、背景グラフィッカー・イラストレーターとして長年活躍されている吉田誠治様に取材しました。

特に、著書の「ものがたりの家 -吉田誠治 美術設定集-」の英語版「Housses with a Story」はバチェルダー賞(※)を受賞。読み手を引き込む作品は、国境を越え多くの人に親しまれています。

バチェルダー賞(The Mildred L. Batchelder Award)
英語以外の言語で書かれ英語に翻訳された児童書の中で、最も傑出した作品に対して米国図書館協会児童図書館サービス協会から贈られる賞。

「背景グラフィッカーってなんだろう?」と思った方、実際に働いている人のお話を聞いてみたいなと思った方はもちろん、もしもあなたが「今」の自分の活動や進路に対して悩みを抱えているのならば……。ぜひ最後まで読んでみてくださいね!!

*本記事はパーソルホールディングス株式会社様とN/S高新聞が連携した企画となっています。
「企業トピby新R25」というメディアにも掲載されていますので、ぜひこちらもご覧ください!

目次

お話してくれた方

吉田誠治 / YOSHIDA Seiji さん
イラストレーター・ゲーム背景グラフィッカー / 京都芸術大学講師。

PCゲームメーカーに勤務後、2003年よりフリーの背景グラフィッカーとして活動中。
多数のゲーム制作に参加するほか、近年は書籍の装画なども手掛けている。

著書には『TIPS!』エムディエヌコーポレーション、『ものがたりの家』パイ インターナショナル、『吉田誠治作品集』玄光社などがある。

吉田さんってどんな方? 普段のお仕事内容とは!?

いふぁ

本日はよろしくお願いします!

ーー早速ですが、まず吉田さんの普段のお仕事の内容について教えてください!

吉田さん

以前はゲーム用の背景を描く仕事がメインでしたが、ここ数年はイラストレーターとしての仕事がメインになっています。

その日その時期によるのですが、今は半分ぐらいが受注したイラストの仕事で、もう半分は自分の著書の原稿を書くというのが主な仕事です。

吉田さんが手掛けたイラスト達。どこかに本当にありそうな世界観が魅力的。
いふぁ

原稿というと、「ものがたりの家」(※)のようなものですか?

※ものがたりの家
「ものがたりの家 -吉田誠治 美術設定集-」
吉田さんの著書であり、取材者にとって思い出深い本。思わず住みたいと思うような魅力的な「家」が収録されている。詳細はコチラから。

取材者私物。通常版(左)と、雪化粧が建物の異なる顔を見せるクリスマス限定カバー版(右)。
吉田さん

いえ、意外かもしれませんがそういった仕事は少なくて、実際の建物のイラストなどですね。

例えば、去年出版された「小学館の図鑑NEO まどあけずかん たてもの」の幾つかのイラストも僕が描きました。仕掛けがとても多い図鑑で、モン・サン・ミシェルのイラストでは、潮が引くと道が出てくる様子をページをめくることで表現したりなど、かなり力を入れて描きました。そのモン・サン・ミシェルのイラストは表紙にも使われています。

また、ゲームの背景も知り合いの作家さんに頼まれた時などに数枚書いています。

そういうのが半分ですね。もう半分の著書の仕事は、いろいろと出版社の人とやり取りしている最中なので、どんなことをするかはまだ秘密です。

いふぁ

まだ秘密……。これからどんな新発表があるのかワクワクします! 

ーー元々はゲーム会社に勤めていたとのことですが、今のフリーランスの形態を選ばれた理由を教えてください。

吉田さん

会社で背景の仕事をずっとやっていた頃は、すごくたくさんの仕事が来ていました。社外から頼まれる仕事の量もとても多くて。

一方でゲームの企画ってすぐにボツになって進行がうまくいかないことが多いんです。会社を通すと金銭のやり取りも面倒だったので、フリーになって「一人で受けます! 必要な時に呼んでね」っていうふうにしたのが最初の理由ですね。だからイラストレーターになりたいと思っていたわけではなかったんです。

ーーフリーランスになったことで、時間の使い方などに何か変化はありましたか?

吉田さん

会社に頼まれてやらなきゃいけないいろんな仕事や出勤がなくなったことが良かった変化ですね。一番嬉しかったのは、むちゃくちゃ苦手な電話対応をやらなくても良くなったことです。こう言うとすごい社会不適合者みたいですが(笑)。

ちなみに確定申告などは会社にいた頃からやっていて、会社の関係で紹介してもらった税理士さんに今でもお願いしているので、税務関係は何も変わらず済んでいます。

ーー背景グラフィッカーになったきっかけを教えてください!

吉田さん

それは頼まれたからですね。
実はなろうとしてなったわけではないんです。

僕がゲームの絵を描くようになった最初のきっかけは、高校時代に友達と同人ゲームを作るようになったことでした。それもある日突然友達が家に来て、「ちょっと絵描いてよ。絵、上手かったよね、描いて!」みたいな……。ちょうど僕も描くのが好きで、頼まれるままにその同人サークルに参加して、そこがそのまま会社になりました。

当初その会社では僕も背景だけでなくキャラも描いていたのですが、そのキャラはあまり人気が出ませんでした。

一方で背景を描ける人は、当時の20年以上前の業界にほとんどいなかったんです。だからアニメスタジオに外注するのが一般的だったのですが、お金もかかりますし、上からレタッチしたりアナログで仕上がったものをスキャンしたりという作業はゲーム会社の方でやっていて、とても手間がかかっていました。

デジタルで背景を描き、さらに注文を受けつけている人は当時ほとんどおらず、フリーの背景グラフィッカーを名乗ったのは僕が最初なんじゃないかと思うほどです。

ですから仕事の依頼はたくさんあり、それは頼まれたからやっていたのであって、背景を好んで描いていたというわけではありませんでした。今にして思うと、他の人と比べて人間より背景を描くことが好きだったものの、なろうとしてなったわけではなかったんです。

ーー背景と人物を描くことには、意識するポイントなど何かご自身の中で違いはありますか?

吉田さん

あまりないですね。

背景も人物もどういうものなのかをちゃんと考えることが大事で、人間の場合はどういう性格でどういうファッションが好きなのか、何をしているところを描くのかなど、どういう物語が後ろにあるのかを考えます。背景の場合も、どういう人が使うところなのか、どういう経緯でそうなったのかなどを色々考えないといけないので、実はあんまり変わらないんです。

むしろ背景の場合はどういう人が使うのかを考えなきゃいけない訳ですから人間のことを常に考えていますし、建築の常識だけでなく、自然物を描くときは自然物の知識、自然科学の知識が必要で、その水はどういう風に流れるか、木はどのように育つのかなどを考えるようにしています。

吉田さんの著書の原画。実は著書を跨いで物語が繋がっているそうだ。

「二十歳の時に『悩まない』と決めた」〜吉田さんの仕事への思い〜

ーーイラストや大学講師など、今までお仕事に関して悩んだことはありましたか?

吉田さん

全くないです。僕、基本的に悩まないっていうことを二十歳の時に決めたんですね。

一番大事なのは早く決めることなんですよ。何かを悩むときって、結局どの場合にも大体2,3個の選択肢があると思います。

どっちにしようかって悩む場合は悩む理由が2つあって、1つは条件がほぼ一緒で評価できない、変化が少ないから。もう1つはまだ情報が足りていない、つまりは情報を集めきってないから。悩むというのは、この2つのどちらかなんです。条件が一緒なら悩む時間のほうが無駄ですし、情報を集めきってない場合は、情報が集まるまで決めないっていう決断をするんです。

ただ情報がこれ以上集まらなかったり、もう決めないといけなかったりする時もありますよね。そういう時はどっちでもいいので決めちゃう。ただしここで1つルールがあって、後でそっちを選んだことを後悔しないようにするんです。

中国だと「事後孔明」というそうで、後から見れば誰でも諸葛亮孔明になれるけど、その瞬間に決断できるかっていう話で……。その瞬間に悩んでどっちにも決められないのならどっちにしてもどうせ後悔するから(笑)。

何かを選んで失敗すると、こっちにしておけば成功したのにってみんな思いがちなんだけど、そっちにしても失敗していたかもしれないですよね。

いふぁ

たしかに……。

吉田さん

だからどっちかを選んで失敗したとしても、それはもうそういう決断したんだから諦めるっていうことを二十歳の時に決めました。

ーー二十歳の時に決めたというのは何かきっかけがあるんですか?

吉田さん

少しスピリチュアルな話になりますが、大学生だった当時、スクールバスで同級生に会いたくないがために駅から大学まで20分ほどかけて歩いていました。

八王子の山奥を歩きながら同じような四季の変化を1年、2年と見て、変わらず同じ四季の変化を3年の時にもう1回見て、その時に今まで掴めないでいた世界というものを何となく掴めたように感じたんです。世界っていうのはアプローチしなければ変わらないし、何か自分から動いたら動いた分だけ変わる。じゃあよくない方向に変わるんじゃないかみたいな無駄なことを悩むのはもうやめようとそこで思ったんですね。悩むんだったら、決めてさっさとやった方が物事が回るぞ! と……。

こういった少しスピリチュアルな理由がきっかけです。

ーーどうしても悩んでしまうことはないんですか?

吉田さん

あります。その場合は妻に相談します。

人に相談して解決することは意外にも多くて、「どっちにしてもいいんだけど、この仕事を受けた方がいいかな」と一言相談すると、自分の考えもまとまりますし、それが結構助かっています。

ーー続いて、ご自身のお仕事での好きなことや、やりがいについて教えてください。

吉田さん

好きなこと……。僕にとって絵を描くこと=好きなことですね。

吉田さん

多くの人にとってコミュニケーションの手段といえば言語だと思いますが、僕にとっては絵というのも表現手段の一つで、絵を見て何か感動してもらえたのなら、それはコミュニケーションが成立したと考えています。だから、絵を描くのも楽しいし、この絵がちゃんと伝わったなっていう反応が返ってきた時は言葉が通じたのと同じ喜びがあってすごく嬉しいんです。

僕、大学の時に目標を立ててたのが一つあって、それは自分が描いた絵本が世界中に出版されて、いろんな人に共感してもらうことだったんです。自分が読んで感動した絵本を、僕も出したいっていう気持ちが学生時代にあったんですね。共感のコミュニケーションなので、言語を超えてコミュニケーションが成立するのが嬉しいですね。

ーーイラストを描いている途中で行き詰まってしまうことはありますか?

吉田さん

あります。そういう時、上手くいかないってなった時にでも、一旦最後まで描いて発表してしまうようにしています。すると、意外とそれを好きって言ってくれる人もいるんです。

こうするのには2つの理由があって……。

吉田さん

まず1つ目。
僕がどれほど「こうしたい。ああしたい。」と思って描いても、いつも僕にとっては100点でない中途半端な状態で常に出てきます。でも見る人はそれを100点だと思って見てくれるので、これ以上にうまい表現があるとは思わないんですね。僕がもっと上手くやりたかった……と思っても、見た人はその状態で特に減点するところが見当たらなければそのまま受け取ってくれるんです。

今まで自分が納得できないからと仕舞っていたものが多くありましたが、知人に「何で発表しないんだ!?」と言われてからは発表するようになりました。

2つ目の理由は、受け取る側が自分が思っていたのとは違うポジティブな受け取り方をしてくれることがあるからです。自分が想定していなかった価値を見出す人もいて、受け手側で価値を付与してくれることがあるので、一度出してみるというのは大事なことかなと思っています。

吉田さん

また、僕が画集などを通して実際にしていることでもありますが、納得できない場合はもう一回やるっていう手もありますね。こういうアプローチも良かったけど、100点じゃないから次はこっちからやってみようかなみたいな。そうするためにも、やはり一回完成させるというのはすごく大事ですね。

いふぁ

なるほど……。
確かに一度人の目に触れるからこその気づきってありますよね! 

ーーご自身のお仕事で大事にしていること、もしくは他者に伝えたい想いはありますか?

吉田さん

うーん何だろう……。
多少ネガティブな設定を描いたとしても、作品から受ける印象がポジティブなものになるようにしていますね。

また、僕の持ち味は楽しそうっていうのを表現するところなので、絵を描いてみたいとか、行動しようという気持ちを引き出せたらなと思いますね。

大学で講師をしていると、「背景は上手く描けそうにない」という思い込みで自らハードルを高めている人もいて、僕が目の前で「こんなんでいいんだよ」と描いてみると、「そんなんでいいんだ、じゃあ描いてみよう」とハードルを下げることができるんです。

理想とする目標が高すぎて一歩を踏み出せない人は、踏み出すべき一歩目のハードルをうんと低くすればいいと思っています。どんなに低くてもそれを超えたのなら、以前よりもポジティブな状態になったわけですよね。0を1に近づけるような、そういう意味でのポジティブさも発信していきたいと思っています。

ーー吉田さんにとっての働く上でのwell-beingとは何でしょうか?

吉田さん

僕の考え方だと、自分だけでなく社会全体が良くなることを考えて商売をすると、結果として自分にもいいことがあるよということですね。お金儲けのこともちゃんと考えてるんですが、既にあるコミュニティを削ってお金儲けをするのではなくて、そこにさらに自分の価値を足して、その分の取り分をもらうということです。

削るよりも、業界全体の新規参入者を増やしていくことで、僕自身も健康健全な状態で仕事が続けられるんですよ。

僕はYouTubeなどでの情報発信もしていて、正直「自分が正しい! 他は間違ってる!」みたいに他者や業界を否定して人を集めた方が、一時的には儲かると思います。でもそういう行動では10年と続けていくことはできませんし、そうするのではなく自分の信頼を作って信頼で市場を作り、そこから自分の分をちょっともらうようにすると、僕以外の人も業界全体のみんなに利益があって、社会がうまく回っていくと思うんです。

普段のお仕事時の様子。自宅の地下はアトリエになっている。
いふぁ

すごく失礼な言い方になりますが、利益(お金)を重視するのであれば、一定以上のお金を得たら別に働かなくてもよくなると思うのですが……。

吉田さん

面白い観点ですね! やはり業界をよくしていきたいという思いがあるからかなと思います。本の執筆などお金になることよりも、他の人に頼まれた仕事をしています。周りから背景を描く後進を育ててくれと頼まれたのをきっかけに講師の仕事もしているのですが、実際講師の仕事ではほとんど儲かりません。

でも、僕が教えた学生でプロになった人が何人もいるんです。僕が育てた教え子が僕に憧れて業界に入り、社会で徐々に活躍していくと業界全体が活気づき、その盛り上がりは背景を良くしていこうといった空気を生み、作品のクオリティが上がることに繋がるんです。

そうなると結果的に僕も儲かります(笑)。

でも僕が儲かるというのは全体のいい部分の0.1%ぐらいであって、それとは関係なく、その何千倍も大きな業界全体が盛り上がるっていうパワーが発生するんです。

今話しながら気付いたのですが、僕はそのパワーを見ることがとても好きです。

実は「ものがたりの家」も、最初は学生に教えるための教材として書いたんです。そういうリターンもありますし、学生と話すうちに若い人のセンスという非常に代え難いものを自分の創作にもらうこともあります。

いふぁ

ちなみに、最近SNSでFIRE(※)という言葉をよく耳にしますが……。

吉田さん

絵を描くことが好きなので、仕事を辞めても絵を描くのをやめません。

それは仕事を続けているのと同じなので、FIREができるようになっても僕はしないと思います。

いふぁ

「好き」が仕事になっているからこそということですね!

FIRE
「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った言葉。「経済的自立」と「早期リタイア」を意味する。

吉田さんが思う、若いうちにしておくべきこと。

ーー最後に学生に向けて、学生のうちにしておけばよかったこと、お勧めのことを教えてください!

吉田さん

とにかく「無駄」なことをやってほしいと思います。

今って何事に対しても情報が多いからこそ各進路への解像度が高くなりやすく、それを学ぶための環境などいろんなレールがちゃんと敷かれていますよね。全部をやるには時間が足りないから選ぶことが必要になります。でもそうすると、選ばなかった「無駄」なことを制限しがちです。

僕は、学生時代に手当たり次第いろんなことに手をつけていました。スキーもやっていましたし、漫画や本、ゲームの制作もしましたし、大学生の頃は広告や映像に興味があって、朝5時に起きて映画1本見てから大学に行くという生活を通して年間300本以上の映画を見たり、広告のマーケティングやマネタイズについて研究したりもしていました。

でもこれって、当時からするとイラストレーターになるには必要ない無駄なことですよね。ですが、SNS時代の現在ではこの時に得た知識がとても活かされているんです。

友人と映画を撮ったりした経験は、今YouTubeを編集するのに役立っていますし、いろんな人と話す時も、学生時代にやった「無駄」なことが全然無駄じゃないねっていう話をするんですね。

目的に特化しようとすると、他を切り捨てるようになってしまいます。どれをやろうか迷うよりも、興味のあることを片っ端から全部やってみるのもいいのではないでしょうか。

専門に特化するよりも、今無駄だと思われるいろんなことを少しずつ幅広く経験している人の方が、いざ専門的なことをしようとした時に強いと思います。

今の学生って本当に時間がないなと見ていて思いますが、だからこそ、興味のあるいろんなことに取り組んでみてください

*終わりに

終始朗らかに、そして気さくにインタビューに応じてくださった吉田さん。悩むことはしない、無駄なことでもいろんなことに挑戦してみると良いのではというお話が、特に印象的でした。

受験を控えた今、私自身も周囲と自分を比べて悩み、不安に感じることがよくあります。自分が今時間をかけていることは、楽しさを優先しただけで将来には全く繋がらない意味のない「無駄」ものなのではないだろうかと。

ですが、私が今「無駄」かもしれないと感じることであっても、今後の自分の人生のどこかで活きる機会があるのかもしれません。

最後まで読んでくださった皆さんありがとうございます。
この記事を読んだ皆さんが、よりwell-beingに過ごせますように

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