月の海を見つめて ~いい夫婦の日に考えるLGBT~

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取材・文=Яita(りた)(N高5期・ネットコース)

今日、11月22日は『いい夫婦の日ですね。

この日に婚姻届を提出する人も多いかと思います。ですが、僕はこの『いい夫婦』という言葉に少しもやもやしてしまいます。これは過去の記事(※1)の中でお話した通り、僕がLGBT(※2)の当事者ゆえ感じるものかもしれません。

※1 LGBTについて考える第2弾 僕はペンキをかぶりたい

※2 LGBTとはセクシュアルマイノリティ(性的少数者)のことで、女性の同性愛を指す『レズビアン』、男性の同性愛を指す『ゲイ』、男女どちらにも性愛感情が向く『バイセクシュアル』の3つの性的指向と、性自認と身体的性が一致しない人々を指す『トランスジェンダー』の各単語の頭文字を取ってLGBTと言う。近頃はさまざまなジェンダーやセクシュアリティをまとめてLGBTQ+と表すことが多い。

『夫婦』を辞書で引くと、”婚姻関係にある男女”とあります。

『いい夫婦の日』は、異性愛者を前提にしているわけです。この記念日が定められたのは、より良い夫婦関係を築いてほしいという思いが込められているそうで、それはもちろん素敵なことだと思います。

しかし、実際は法的に結婚することが叶わない人もいますし、そもそも人に対して恋愛感情や性的感情を抱かない人もいるのです。

今回はこの、恋愛感情を抱かない『アロマンティック』と性的感情を抱かない『アセクシャル』にスポットを当て、3名の当事者の方に匿名でインタビューをさせていただきました!

目次

Mさんのお話

Mさん アロマンティック・アセクシャル

ーー自分がアロマンティック・アセクシャルだと気づいたきっかけはありますか?

ネットで『無性愛(※3)』という言葉を見つけて、そこから色々調べていくうちに『アロマンティック』や『アセクシャル』という言葉を知りました。それを見て「あ、自分のことだ」とピンと来た、というのがきっかけです。

※3 アセクシャルと同義

ーー気付いた時にはどのように感じましたか?

今まで生きてきた自分の人生の全てに納得できた感じがしました。『アロマンティック』や『アセクシャル』という言葉の存在を知ることができてよかったという気持ちになりました。

ーーでは、子どものときから違和感があったということですか?

はい。違和感だけではなく、周りの子たちに好きな人ができるようになってきて、「自分も好きな人を作らないといけない」と思い、うそをついて好きな人がいるふりをしていたこともあります。

※4 自分が性的少数者であると公表すること。

ーーカミングアウトはしていますか?

家族にはしています。自分のtimes(※5)でもカミングアウトしています。

※5 Slackのワークスペース内で個人が自由に発言していく場として作成されるチャンネルのこと

ーーカミングアウトをしている相手が家族、timesのメンバーとのことですが、カミングアウトする相手の基準などはありますか?

自分をさらけ出していいところではカミングアウトしています。

ーーカミングアウトした時にはどんな反応が返ってきて、その反応に対してどう感じましたか?

そうですね。普通に今まで通り接してくれる人もいるのですが、たまに「将来変わるかもしれないよ」みたいなことを言われることもあって、それが結構しんどいと感じます。

ーーでは、カミングアウトした時にはどういう受け止め方をしてもらえたら安心できると思いますか?

特別なものとして受け止めるのではなく、「そういう人もいるんだな」ぐらいに思ってもらえるとカミングアウトする側としてはありがたいです。 

ーーなるほど。ありがとうございます。

ーー無理に答えなくても結構ですが、これまでに傷付いた出来事はありましたか?

先程も少し話しましたが、LGBTに理解がある人にアロマンティック・アセクシャルだと伝えたら、「でも、将来変わるかもしれないよ」と言われたことがあるんです。確かにセクシュアリティは流動的な部分もあるので変わるかもしれないけれど、もし異性愛者だったら、将来的に変わるかもしれないなんてことはあまり言われないだろうな、ということに気づいてとてもしんどくなりました。

ーーどうやってそれを乗り越えたのでしょうか?

今まさに乗り越えようとしている途中で、その過程でとても大事なことがあると思っています。それは、傷つくようなことを言われたときにはっきりと「それは嫌だ」と言えるようになることです。本当に相手は悪気なく、何も考えずに 言っている場合もあると思うので……。

ーー確かに、それはとても大切だと思います。

では、 なにか普段の生活で困ることや不快に思うことはありますか?

恋人の有無の話が多いことです。異性愛者の前提で話をされるのは困りますし、少し不快にも感じます。

ーーそんなときはどう対処していますか?

なんとか笑って流しています。

ーーどうして今回のインタビューに応じてくれたのでしょうか?

アロマンティック・アセクシャルの人を募集をされていて、まさに自分のことだと思ったのでインタビューを受けることにしました。そうすることでアロマンティックやアセクシャルのことをあまり知らない人たちにも、気づきを得てもらうというか知ってもらえたらいいな、と思って受けました。

ーー今回の記事は「いい夫婦の日に考えるLGBT」ということですが、恋愛や結婚のことを考えることはありますか?

たまにドラマやアニメを見て、「恋愛とか結婚ってこんな感じなのかな」と考えることはあります。

ーーこの世界がどんな世界になってくれることを望みますか?

マイノリティの人だけじゃなくても、人のデリケートな部分には過干渉にならない世界になってほしいです。

ーーその世界の実現のために、当事者とそれ以外の人にできることを何か思いつきますか?

常に相手の立場になって物事を考えることで、一人ひとりがみんなに優しくしたり、気遣ったりすることが大事だと思います。

ーーLGBT当事者の支援者やそのほか周りの方々に伝えたいメッセージがあればお願いします。

まだLGBTについて知らない人も多いので、いろんな人に知ってもらうことで、みんなで一緒にすべての人が生きやすい社会にしていければと思ってます。

ーー同じLGBT当事者の方々にひとことお願いします。

時にはとてもしんどくて辛い思いをすることもあるかもしれませんが、絶対にこの世界のどこかには仲間がいるので、一緒に頑張って生きていきましょう。

Яita

他のアロマンティックやアセクシャルの方に出会ったことはありますか?

Mさん

会ったことはないです。

Яita

会ったらどんな話をしてみたいと思いますか?

Mさん

アロマンティック・アセクシャルゆえの普段の困りごとや愚痴など、そういうことを話せたらうれしいとは思います。

soraさんのお話

soraさん アロマンティック・アセクシャル

ーー自分がアロマンティック・アセクシャルだと気づいたきっかけはありますか?

友達などの周りの人が恋愛の話をしていて、「そういう感情、一度も持ったことがないなあ」と思ったときですね。

ーー気付いた時にはどのように感じましたか?

そのときには既にLGBTについて調べて知っていたので、「それなのかなあ」といった感じでした。

ーーなるほど。 調べていたというのは、昔から違和感などがあったのでしょうか?

ああ、それは恋愛のことではなくて、性別のことで調べたんです。

ーーでは、アロマンティック・アセクシャルに関することで違和感などはありましたか?

違和感というのはそこまでなくて、ただ、恋愛感情とかよくわからないし、好きになった人が一人もいないな、という感じでした。

ーーカミングアウトはしていますか?

カミングアウトというか、「恋愛感情はよくわからないんだよね」といったことまでは言っています。

ーーLGBTのアロマンティックやアセクシャルだとは言ったことがないということですか?

ないですね。

ーーでは、きちんとしたカミングアウトはしたいと思っていますか?

いつかできたらいいとは思っています。

アロマンティック・アセクシャルのことを言っても相手に知識があるかどうかわからないので、言えずにいるという感じもありますね。

ーーでは、カミングアウトした時にはどういう受け止め方をしてもらえたら安心できると思いますか?

もし伝えたとしても「そうなんだ」や「そういう人もいるんだな」くらいに思ってもらえればと思います。

ーーありがとうございます。

ーー無理に答えなくても結構ですが、これまでに傷付いた出来事はありましたか?

傷付いたというか、「興味ないんだよね」と言った時に「なんで?」といったことを言われると、「個人の自由なんだし、いいんじゃないの?」と思うことはありますね。

でも、よく恋愛話をするような人が周りにあんまりいないというのもあって、そこまで傷付くことは今までなかったと思います。

ありがとうございます。今のお話は、傷付くというより普段の生活で困ることという感じですか?

そうですね。

ーーでは、そんなときはどう対処していますか?

大抵、「好きになった人が一人もいないからしょうがないじゃん」と流していますね。

ーーどうして今回のインタビューに応じてくれたのでしょうか?

Яitaさんが以前のLGBTの記事(※6)でインタビューする人を募集されているのを見たのですが、迷っているうちに締切が過ぎてしまったんですね。今度は受けてみたいと思って声を掛けました。

ーー今回の記事は「いい夫婦の日に考えるLGBT」ということですが、恋愛や結婚のことを考えることはありますか?

恋愛に関しては、今アロマンティックだと考えているのが将来も同じか、正直わからないです。結婚に関しては、結婚というのではなく、生涯一緒に過ごせるような人がいたらいいかなとは思っています。

ーーこの世界がどんな世界になってくれることを望みますか?

恋愛するのは自由だと思うから、そこは恋愛をすることが当たり前という考えを押し付けないでほしいと思っています。それ以前に「どんな考えでも他人に押し付けちゃいけないよね」という認識を持ってくれたらいいなと思います。

ーーその世界の実現のために、当事者とそれ以外の人にできることを何か思いつきますか?

とりあえず、こういう人たちもいるんだということを周りに知ってもらうことですかね。

ーーLGBT当事者の支援者やそのほか周りの方々に伝えたいメッセージがあればお願いします。

人間、誰一人同じ人はいないのだから、こんな考えやこういう人たちもいるんだな、と思ってもらえればいいなと思っています。

ーー同じLGBT当事者の方々にひとことお願いします。

無理せず、ほどほどに頑張っていきましょう。 

Яita

他のアロマンティックやアセクシャルの方に出会ったことはありますか?

soraさん

恐らくないですね。

Яita

会ったらどんな話をしてみたいと思いますか?

soraさん

恋愛の話は嫌いではなくて、他の人の話を聞いているのは別に構わないんですね。ただ、自分に振られたら何も話すことがないし、困る。そういうちょっとしたあるあるを話したいと思います。

Kさんのお話

Kさん アセクシャル

ーー自分がアセクシャルだと気づいたきっかけはありますか?

学校や世間で何度か性的な魅力についての話題が出てくるときがあるじゃないですか? そういう時に男性についてだと「筋肉がかっこいい」といったことや、女性についてだと「豊満な胸が素敵だ」といったこと、そういう話があまり理解できなくて……。そこで自分はちょっと違うのかな、と気づきました。

ーー気付いた時にはどのように感じましたか?

アセクシャルという言葉を見つけたときに、「あ、自分はこれなんだ」と思ってなんだかほっとした感じがしました。欠陥があるというふうに思っていたので……。自分はこれでもいいんだと思って、ちょっと安心しましたね。

ーー周りが性的な話をし始めて気づいたとおっしゃいましたが、それは結構前のことなのでしょうか? その、昔から違和感などを抱いていたということはあったのですか?

違和感を抱き始めたのは、小学校高学年ぐらいからですかね。

ーーカミングアウトはしていますか?

はい。 家族にしています。

ーーカミングアウトした時にはどんな反応が返ってきて、その反応に対してどう感じましたか?

自分の家庭は少し一般的ではないのかもしれないのですが、家庭自体が世間との違いを抱えて過ごしてきたようなところがあって、みんなアセクシャルやアロマンティックに近い感覚があったんですね。家族に話したときには、母も父も弟も、「自分もそうかもしれない」といったことを言ってくれたんです。世間の人と会話がうまくかみ合わないところがあったということついて、みんなで「あ、これだったんだね」という話ができました。

ーーそうだったんですね。ありがとうございます。

では、もし家族以外にカミングアウトするとしたら、どういう受け止め方をしてもらえたら安心できると思いますか?

欠陥がある人間ではなくて、「あ、そういう人なんだね」というふうに軽く流してもらえると一番いいのかな、と思います。

ーーありがとうございます。

ーー無理に答えなくても結構ですが、これまでに傷付いた出来事はありましたか?

自分は性的な感情がないのかもしれないというふうに周りに話すと「まだ経験が浅いんだよ」といったことや「まだ素敵な人に出会ってないんだよ」といったことを言われて、なんだか軽視されるような扱いをされることです。みんなは励ます感じで言っているだけで、傷つけるつもりで言っているわけではないとは思うのですが、それがより「そういう人はいないよ」と言われている感じがして、ちょっと傷付きました。

ーーどうやってそれを乗り越えたのでしょうか?

自分で調べたり、自分と似たような人がいることを知ることで乗り越えることができました。

ーーでは、 なにか普段の生活で困ることや不快に思うことはありますか?

「好きな人いるの?」「結婚するつもりはあるの?」といった話を日常的な会話としてする世間の人に対して「”しない”という道はないのか?」と思います。

ーー普段の生活の中でそういう質問をされることがあるのでしょうか?

祖父母に会いに行ったときなどに「恋人はいないのか?」といった話をされてしまうので、なんと言ったらいいかわからず、困ることもあります。

ーーそんなときはどう対処していますか?

「まだそういうことは考えられないんだよね」というふうに伝えてやり過ごしています。

ーーどうして今回のインタビューに応じてくれたのでしょうか?

レズビアンの方やゲイの方について、受け入れられているかいないかはさておき、結構世間でも話題になっていて、存在自体の認知はされているじゃないですか? でも、アセクシャルやアロマンティックはそもそも認知すら全然されていないと思うんですよ。それで、まず認知をしてもらいたいと思ってインタビューを受けようと思いました。

ーー今回の記事は「いい夫婦の日に考えるLGBT」ということですが、恋愛や結婚のことを考えることはありますか?

少しあります。自分は恋愛感情がないわけではないので、恋愛ができるのかもしれません。とはいえ、性的魅力というものは感じないので一般的な恋愛関係や夫婦関係を築くのは無理かもしれないのですが、人生のパートナーみたいな人が欲しいということは少し考えます。

ーーこの世界がどんな世界になってくれることを望みますか?

ジェンダーやセクシャリティなど関係なく、「みんながみんなそれぞれでいいよね」と、受け入れるまではいかなくとも、許容される世界になってほしいな、と思います。

ーーその世界の実現のために、当事者とそれ以外の人にできることを何か思いつきますか?

まず知識を身につけることだと思います。人は自分と違うものを受け入れるのに抵抗を感じるじゃないですか? でも知ることでまたそこも変わって来ると思うので、「いろんな人がいるよ」と学んでもらうことが大切だと思います。

ーーLGBT当事者の支援者やそのほか周りの方々に伝えたいメッセージがあればお願いします。

自分は、当事者でない人が理解して寄り添ってくれるということをとても心強いと感じます。自分たちだけじゃなく支えがあるからこそ、このように発信していく勇気につながると思うので、とてもありがたいと思っています。

ーー同じLGBT当事者の方々にひとことお願いします。

心ない言葉を言われることもありますが、”自分だけ”ではないですし、みんな色々悩みを抱えて生きていると思っています。だから、自分の中だけに悩みを閉じ込めたりしないで、誰か頼れる人を見つけるということが一番大事だと思います。

Яita

他のアセクシャルの方に出会ったことはありますか?

Kさん

ネット、SNSなどを通じてなら出会ったことがあります。

Яita

その時、どういう話ができたか、どう感じたかなどがあれば教えてください。

Kさん

アセクシャルながら恋人がいらっしゃって、幸せな家庭を築こうとしている人で、恋愛的な相談などに少し乗ってもらうなどしていましたね。

終わりに

いかがでしたでしょうか? 

まずはみなさん、インタビューに応えてくれた3人の勇気ある行動に、心の中でぜひ拍手を送ってください。

月を見上げて、お餅をつくうさぎが見えたことがありますか? 月の海が何に見えるかは国によって違います。日本人であっても実際のところ、「お餅をつくうさぎ」に見えるかどうかは人によって違うのではないかと思います。

月の海を見つめたとき、あなたはその海が何に見えますか? 

人によって月の海が何に見えているかが違うように、人はそれぞれ違うものです。

11月22日の『いい夫婦の日』にLGBTについて考えることで、改めて”世界には様々な人がいる”ということを再認識していただきたいと思い、この記事を書きました。特に今回は恋愛感情を抱かない『アロマンティック』と性的感情を抱かない『アセクシャル』について取り上げましたが、他にもたくさんのセクシャリティが存在します。また、LGBT当事者に限らず、恋愛・結婚についてはいろんな人がいろんな考え方を持っているものです。

記事を読んで、LGBTに対する理解を深めつつ、すべての人が尊重される世界を築くために自分にできることを考えてみてください。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • アロマンティックやアセクシャルという言葉を初めて聞きました
    自分自身、LGBTについてある程度理解はあるとおもっていたので、深く興味を示さなかったのですが、まだまだ知らない世界や思いがあるんだと気づけました!ありがとうございます!

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